2025年4月15日火曜日

ジャンダルム北面 正面フェース右

 







 ジャンダルム周辺には過去も何度か行っているのだが、いつも一体どこをどう登ったのかはっきりしないことばかりだった。登った日が大体ガスっていたこと、筆者の地形認知能力が低いことが理由に違いない。しかしこのたび快晴のもと、概念を把握して登山大系のルートを認知することが漸く叶った。
 随分と久しぶりに春の白出沢を詰めていると朧げな記憶が徐々に想起されてくる。そういえばセマ谷はこんな感じのゴルジュだった、セマ谷上部の傾斜が強くて意外に緊張した、カチカチの雪面を延々バックステップで恐々下降した。靄がかった過去の光景がモノクロになり、やがてカラーになっていく。緊張しながらもじんわりと懐かしい。悪天にせっつかれながら登る必要がないので、ゆっくりと概念を確認しつつ登る。やがてジャンダルムその方とご対面。クライミングの開始地点まで少々悪いアプローチをこなし、リッジ状の凹角からロープをつけてスタート。
 クライミングはジャンダルム山頂直下2Pは凹状や簡単なワイドクラックを繋ぎ50m~60mくらい伸ばして進む。脆い岩は固まっておりプロテクションは良好でアックスクライミングが楽しい。割合残置支点が多く見かけるので過去はよく登られていたのであろう。ジャンダルム本体頂上への登りはプロテクションの取りづらそうな傾斜の強い中央凹角を避けて右上した。ここもプロテクションは良好である。ただ登るにつれて岩が堆積しただけの状態となるので注意したい。登山体系にはⅢ級とあるが、実際に各ピッチがⅢ級なのか全然わからなかった。気持ちよく面白いクライミングに感じたのでⅣ級くらいあるのかもしれない。ちょっと緊張する縦走をこなす必要があるので、ジャンダルム山頂についてからのほうが緊張する。白出沢の下部平坦地まできてようやく一安心。埃っぽい風が春の香を運ぶ。靴の中は融雪で水浸し。また一つ冬を越えたのだ。
 自らの記憶の覚束なさには毎度あきれる。しかし、記憶力が良すぎても懐古の悦びがないのではないだろうか。鮮明な記憶は事実と真実から良きところを抽出した思い出という概念を作り出すのに障壁となる。適度な記憶力の悪さと記憶補正精度のプラス側への偏りが長く山登りを楽しむ重要特性なのかもしれない。

<アプローチ>
ジャンダルム飛騨尾根を登ってトラバースして取りつく、或いは白出沢を詰めて取りつく。白出沢を遡行して取りつく場合には大滝が出ていると右岸から高巻く必要がある。積雪が少ないと天狗沢を少し上がり尾根を乗越したほうが良いかもしれない。更にセマ谷を詰めあがるが、雪崩のリスクがあるため積雪期は相応の判断が求められる。セマ谷内も部分的に悪い個所が出てくるので油断ならない。正面フェースはセマ谷から登ってくると最も左側に回り込んだところにある。下降はセマ谷が降りやすいコンディションならばそちらを、そうでない場合には奥穂まで行き白出沢を下降する。厳冬期で雪崩リスクがある場合には涸沢岳まで行って西尾根を下降することも検討したい。

<装備>
カム一式、トライカム少々、ピトン少々

<快適登攀可能季節>
12月~4月。岩がぼろいので岩が固まっている時期がよい。厳冬期はエビの尻尾に覆われてやりがいがある。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。
栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。

2025年4月6日日曜日

南岳南西尾根

 










 新穂高右俣林道にある穂高連峰なんちゃら西尾根シリーズの中でもマイナー最右翼は南岳南西尾根ではないだろうか。出だしのものすごい急登と藪を見れば誰しも「これは今ではない」となるのも頷ける。その時がいつ来るのか、或いは来ないのかは人によるのだろう。
 
 尾根末端はやっぱり凄い急登で怖気づく。ルンゼを少し登ってから緩い個所を目指して尾根に取りつく。取りついてみると傾斜は強いが単調な傾斜である。主たる藪は笹で許してあげてもいいぐらいの密度だ。下部樹林帯の尾根は細い個所に岩場が出てきて結構面白い。2400mくらいで下部樹林帯を抜ける。滝谷の雄姿を眺めながら気持ちの良い雪稜を登る。途中小ギャップがある地点は雪の状態次第で懸垂したほうが良いだろう。再び雪稜と雪面を登ると西尾根との合流点手前の岩場となる。岩質は槍ヶ岳小槍の岩とそっくりで穂高連峰の火山活動が偲ばれる。この岩場を直登しても良いが合理性が乏しい。右寄りが登り易く自然なので普通はこちらからを選択することになるのでは。慣れていればロープが要らない程度かもしれないが、念のため確保するほうが吉。あとはゆるっと南岳山頂へ。尾根が直接山頂へ至らず広い雪面となって尾根が消えるのがちょっと残念だが、尾根登りとしては変化に富んでいて面白い。

 山登りはルールがないし、どこに行くか何をするのか選択しなければ始まらない。選択とは主体性が表出するもの、と思っていたがそうでもない気がする。ぶらぶら山登りを続けていると、勃然継続登攀のラインが開眼したり、かつては歯牙にもかけなかったラインが突如気になってきたりする。そしてこの意欲の惹起を言語化するのはなぜか困難である。登山は思念が行為として具現する裏に非言語の因果が無数にあるという大切なことを再確認する場でもある。ぼくらは粒子であり波のようだ。山のコンディションという初期条件を土台に、自らの中にある関数と相棒の関数が合成され思わぬ方向に写像が飛んで行く。次はどこに飛ばされるのか楽しみである。

<アプローチ>
藤木レリーフより少し上にあるルンゼから取りつく。厳冬期であれば傾斜の緩いところを選んで尾根に乗る。雪がしっかりついた残雪期であればルンゼをそのまま詰めあがることもできる。幕営箇所は下部樹林帯を抜ければ何か所かある。下山は雪が安定している場合南沢が最速。雪のコンディションや気分に応じて西尾根を下降したり、大切戸を超えてB沢から滝谷を下降するのも面白い。

<装備>
トライカム、ナッツ

<快適登攀可能季節>
12月~4月。出だしの急登や雪稜は雪がしっかりついていないと登りにくい。雪が多いシーズン後半のほうが快適だと思う。

<温泉>
新穂高温泉なのでどこでも入ることが出来る。価格帯は高い。
栃尾の荒神の湯は良い露天風呂。体を洗う場合は石鹸を持っていこう。寒くて洗えないかもしれないけど。割石温泉まで行くのもいいだろう。