黒部には不思議な地形が数多くあるが突坂山の凹地ほど気を引くものはない。高差10m以上の凹地は山では珍しいのだが、突坂山では池と凹地が併せて存在しているのである。この突坂山の凹地についてウィキペディアには東鐘釣山と同じ石灰岩からなりカルスト地形のドリーネと書いてある。いや、ここは石灰岩じゃねえだろ。しかし、数少ない経験やつぎはぎ情報で作られた地質図の情報だけで世界を解った気になってはいけない。不可思議な情報はこの眼で確かめる甲斐がある。
大深層谷の出合に到着すると易しい谷であることが推し量れる渓相でほっとする。花崗岩の崩壊ガレが多く谷は埋まっており遡行は易しい。下部のゴルジュ地形は少しドキドキするけど問題となる滝は出てこなかった。最短で山頂を目指すべく1120mで右俣へ入る。急峻な右俣は心配していたがここも遡行は易しくて助かる。しかしガレが不安定となっているのでパーティーで登っている場合は注意が必要だろう。コルからは猛烈な藪だ。急な登りでは古ーいFIXが足元に見られるが、この山に思いを寄せる人がいて嬉しい。藪に埋もれつつあるこの荒縄FIXが積雪期に設置されたのか無雪期なのかは謎である。ちなみに史実として突坂山に登った記録がある最初のものは明治42年高岡新報社の新聞記者であった井上江花による登山である。この時は黒薙温泉から尾根を登り3時間半で山頂へ至っているため猟師、杣人、営林署作業員誰かの作業道があったと推量される。当時から大深層谷も登路としては認識されていたようだが険しいとの認識であったようだ。
いよいよ近づいてきた。稜線の強烈な藪漕ぎも池ボルテージを上げるスパイスで悪くない。藪をかき分け視界が広がった刹那、我々の世界が開闢した。そこにあったのは池というよりも池塘近い湿地であった。浮島のような草の風情が白木峰と似ている。沈黙の水の住人はミズスマシ、マツモムシ、ヤゴといった皆様である。一体君たちはどこから来たのだい。ギンヤンマの羽音を聞きながら佇み時を思う。地図で3つ描かれている池をすべて巡ったがすべて同じ雰囲気であった。そして地図の凹地は池の上にスゲやカヤの草が繁殖した湿地であった。水面が草で覆われているので池と認定できないだけで水深は地形図上の池とあまり変わらない。しかし二足歩行では水を含んだ腐葉泥に胸まで埋まる危険極まりない湿地となっている。ハイハイスタイルで効率よく移動できることを発見してからは各凹地を巡ることができた。面白いことに水面の草を足場にしてモウセンゴケなどほかの植物も見受けられる。この凹地は池が無くなる湿性遷移の途中過程なのだろう。そして凹地を巡った結果、やはりこの山は花崗岩でドリーネではないことが分かった。凹地へと続く小ルンゼはすべて花崗岩だったので間違いない。あとは三角点を踏んで帰るだけである。三角点は藪の中で視界はほとんどないが目的達成儀式として大事なのである。ほとりで幕営してやろうと鼻息荒く水歩荷したが不快であることが約束されているので、同ルートで帰路についた。池に美しいほとりがあったなら、黒部屈指のデート沢(山)として紹介できたのに残念である。ともあれ、世界を発見する始原的な体験が突坂山にはあった。
この凹地や池の成因は地すべりが濃厚なのかもしれないが真因は謎である。黒部川右岸に点在する池、池塘、平原を全て巡ることで成因の着想が得られるかもしれない。或いはその探求過程で新たな自然に対する視座が得られるかもしれない。こうしてやることが雪だるま式に増えていく。心象世界開闢の旅は長く楽しい。
<アプローチ>
宇奈月ダムからしかるべきところを歩き出合いまで歩く。黒薙川の堰堤上を渡渉して取りつく。水量が多いと渡渉ができないので注意。幕営は随意可能だが、尾根に出てから快適な場所は無い。
<装備>
沢慣れしていればロープだけで問題ない。中サイズのカムが有れば使えるかも。
<快適登攀可能季節>
8月~10月 残雪、寒さ、害虫など各種事情を鑑み判断されたし
<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。
<温泉>
とちの湯:宇奈月温泉総湯は駐車場も無いし、露天風呂もない。山屋のみなさまはこちらへどうぞ。
<博物館など>
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。
うなづき友学館:黒部市立図書館の分館と歴史民俗資料館が併設している。何と言っても1/2愛本刎橋が見ものの博物館である。30年おきにかけ替える刎橋だが、当時のオーソドックスな橋脚がある木造橋の架け替え頻度ってどのくらいだったんだろうか。もっと深く橋の構造比較をしてくれればありがたいと思う。このほか、稚児舞や七夕といった地域の祭事展示も興味深い。
<グルメ>
よか楼:昨今話題の町中華的定食屋。コスパという卑しい概念を持ち出さなくても味で選べる良店。ジビエ料理も時折そろえる。
0 件のコメント:
コメントを投稿