2016年7月13日水曜日

海谷 駒ノ川















「願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃」

自らの理想とする最期を詠んだ西行の和歌である。なるほど、早春の梅にようやく二,三輪の花が開く頃、枝の上には初めてメジロが囀る。緩やかに新しい始まりが感じられる頃にひっそりと死を迎えるとは粋な最期だ。自然の中での遊びに死はつきものだと思うが、冬山やハードゴルジュなどの厳しい自然環境で死ぬのは、ありきたりで興ざめだ。静かな自然の中で死をゆっくり楽しみたいものである。

沢ヤにとっての理想の最期の場所はやはり渓だと思う。5月下旬から6月上旬の新緑の頃が相応しい。芽吹きを終えて輝き始めた木立の中、雪解けの水分を含んだ柔らかい苔の上に倒れる。遠ざかる意識の中、冷たい水を避けるため、這い蹲って羊歯の若芽の上に横たえる。それは日差しを浴びた布団のように柔らかく香しい場所だ。やがて成長する羊歯林はその骸を優しく隠しその場になじませてくれる。高原川の芋生茂谷や赤谷あたりが良いだろう。

コメディタッチの最期ならば紅葉の頃が良い。山里の秋の小沢で木の実を探す熊に出会う。驚いた熊は走ってこちらに向ってくる。慌てふためいてドロの斜面を急いで登ろうとするが滑落して死んでしまう。当の熊は川原に亡骸を運び衣服を引っぺがすだけで立ち去る。そこへ赤く色づいたカエデの葉が両乳房に落ちて、懐かしの欧米ポルノのようになって発見されたらなんと面白い事だろう。五箇山や白川郷といった山里が適地だと思う。

海川の支流駒の川は絶対に死にたくない場所だ。岩壁が発達しているためか、沢の保水力は乏しく出水は早いと考えられる。水は泥と植物由来のポリフェノールの為か茶色く、飲むとちょっと苦い気がする。角礫凝灰岩の巨岩は妖しく、変に侵食されたゴルジュと大滝も相まって地獄のような雰囲気だ。このような激しい自然はやはり生あるものが闘い思索する場所に相応しい。下部の連瀑帯は巻くことも出来るが、積極的に登る事でゴルジュ突破の良きトレーニングとなる。ホールドはどれも甘く少し緊張する。大滝の巻きも条件次第では厳しいものとなるはずだ。とにかく日帰りで楽しむには十分に楽しい地獄である。仲間と連れ立って口笛鳴らし地獄八景生者戯と洒落込もう。

<アプローチ>
山峡パークに駐車し登山道から最初に横切るのが駒ノ川である。登りつめたら登山道を利用し山峡パークに戻る。山峡パークまで国道8号線経由で2時間くらい。

<装備>
カム少々。ピトンをナイフブレードからロストアローを少々。クラックはそれほど発達していないので出番は無いかもしれない。連瀑帯は海谷らしい滝が多く楽しい。

<温泉>
帰りしなならば、朝日町の境鉱泉、地中海などナトリウム泉の温泉がある。500円くらいで入浴可能

<快適登攀可能季節>
7月~11月。虫が少なく快適な時期がよい。雨天時の遡行も良い演出となるだろう。

<グルメ>
たら汁が名物だが、はっきり言ってそれほどでもない。量を食いたいのであれば「きんかい」で定食のご飯大盛りを注文しよう。日本昔話級のてんこ盛りが食える。宮崎海岸のヤマザキショップは定食屋に負けないほど美味しい大盛りカツ丼弁当が500円程で食える穴場。

<博物館>
糸魚川有るフォッサマグナミュージアムは素晴らしい。ここでは石の鑑定も行っているので、山で見つけた気になる石を鑑定してもらおう!(一人10個までです)

翡翠園:散策可能な日本庭園。よく考えられていて、どこから見ても趣が有る。島根県足立美術館の作庭が有名な中根金作による庭園である。構成から考察するに、彼はあの巨大なヒスイ原石を嫌悪していたのではないかと邪推してしまう。

玉翠園:同じく中根金作による庭園。こちらは観覧庭園でガラス越しにしか眺めることは出来ない。柔らかな丘による高低が印象的。

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