2017年3月7日火曜日

硫黄岳前衛峰北壁 第2ルンゼダイレクト







深い山の登山は病み付きになる。しかし深い山とはいささか漠然とした言葉だ。その答えは人それぞれかもしれないが、個人的には距離的に遠い、環境リスクが高い、情報が少なく人跡稀な場所だと考えている。そんな山に入る時にはびびる。だから必死になって考える。その場所の天気を調べ、雪の変化を考え、地形を考慮し、壁や尾根の状態を想像し、最良と思われる準備をする。その思考の過程こそが山登りの楽しみじゃないかな。そして、現場は実際どんな物なのかを観察する事がより深く自然に親しむという事なんだと思う。

硫黄岳前衛峰は遠い山だ。記録が少ない不遇の山と言って差し支えないだろう。長い歩きと渡渉を含む面倒なアプローチが登山者を篩にかけるようだ。この山の北壁は特に積雪期が素晴らしい。岩場の質としては唐幕と明神2263m峰を足して2で割ったような壁で、スラブに張ったベルグラと傾斜の強い凹角で構成されている。北壁の尾根に突上げる顕著なルンゼは谷の下流側から第3ルンゼ、第2ルンゼ、第1ルンゼと呼ばれている。弱点の少ないこの壁の積雪期はルンゼが主な登攀ラインになると思う。

さて、筆者らは最も長くて楽しそうな第2ルンゼを3月に登攀した。下部はアイスクライミングと雪壁登り、上部はベルグラのミックスクライミングと変化に富んでいて非常に面白い。少しランナウトする場面もあるが、安定したベルグラならば快適に登れる。壁のスケールは意外に大きく、尾根上まで6Pであった。コンディション次第ではあるが、どのピッチも適度な難しさのフリークライミングを楽しむ事ができる好ルートだと感じた。

不遇な山域の面白さは上述のように論理的な点も大きいのだが、感情的でウェットな部分も多分に含まれている。山に励まされるといえばいいのか。「お互い日陰者だけど良いところも少しは有るよね」なんて山は言ってくれないけど、もしかしたら次の娘は言ってくれるかも・・・という甘塩っぱい期待を抱きつつ、今日も地形図と地質図を重ねて衛星写真を刮目する。

<アプローチ>
 葛温泉に駐車し高瀬ダムから湯俣方面へ。湯俣までは良く整備された登山道であるが、湖畔の林道歩きは小ルンゼを跨ぐので実は危ない気がする。
 湯俣からは水俣川を遡行する。渡渉を幾度か求められるので、早急なアプローチには何らかの対策が必要。釣り用の胴長ゴム長靴を履いていくとジャブジャブ行けるので早い。
 壁へのアプローチは登山大系の概念図に間違いがあるので注意が必要。中東沢から至近の東壁が見えるルンゼ(地形図でガレマークのあるルンゼ)を詰める。幕営は水俣川のほとり樹林帯に張れる。登攀後の下降はルンゼ左岸の第2岩稜沿いの藪で懸垂するのが良い。東璧は下記写真を参照。


壁を登るだけならば、稜線歩きのリスクはない。もう少し登られても良さそうな場所である。3月に東璧を荷物を背負って登り、硫黄尾根からパチンコしたら面白いかもしれない。或いは穂高方面から北鎌尾根千丈沢側、硫黄前衛、唐幕と後半戦でも壁を繋げられそうだ。富山市内から葛温泉まで下道でおよそ3時間くらい、糸魚川まで高速を使うと2時間30分くらい。

<装備>
カム一式、トライカム少々、イボイボ数本、ピトン各種、アイススクリュー4~5本くらい

<快適登攀可能季節>
12月~3月。雪が安定していないと取り付きまでのアプローチが怖い。3月のベルグラが発達しているほうが面白いのでは。その場合、北面なので一回雨が入り、東壁や谷の雪が落ちきってから登るのが良いと思う。第1ルンゼは純粋なアイスクライミングになりそう。遠目からは2段に分かれていて上部は長い雪田になっているように見えた。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:400円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。

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