2019年8月6日火曜日

境川 卜谷









境川支流の中でも最も遡行者が少ないと考えられるのが卜谷である。「ナメ床の多いさわやかな谷」卜谷は登山大系でこのように表現されている。しかし、白山でも困難な沢が多いというイメージの強い境川である。その中でこのような癒し系表現をされても、二の足を踏んでしまう気持ちも解る。そして、歯応えのある谷へ行ってしまうとアプローチの遠い脇役的な沢(失礼!)へ行く気力が湧かない気持ちも解る。では、誰が卜谷の自然を理解するのか、誰が卜谷に寄り添ってやるのか。そりゃあ、やっぱ地元民でしょう。登山者が自分の近くの山を語れないのはとても寂しい。国際交流において自国の文化を知り伝えられる事が重要なように、登山も自分の地域をどれだけ語れるかが文化としての豊かさな気がする。そして、悲しいかな登山大系の白山の沢は大阪わらじの会によって紹介されている。時間を懸けてでも地元の山を執拗にしゃぶりつくまで味わいたいものである。

卜谷のさわやかさは中盤から後半部分を示した表現だ。序盤はさわやかの対極、まるで海谷のような礫岩ゴルジュである。これは大畠、ボージョ、開津、赤摩木古どれにも当たらない卜谷の特徴だ。個人的にはこれを観察できただけで嬉しい心持がする。巨岩ゴーロをルートファインディングしながら登っていく。ここで一箇所だけロープを出して登った。ゴルジュを抜けると沢は開けて岩盤が露出し始める。東向きで明るいのもさわやか演出に一役買っている。こうなるとウキウキ、キャピキャピし始めるのだが、時々入る巻きの悪さで現実に引き戻されることになる。100mスラブ滝の開放感は圧巻だ。ロープレスで気分良く登りたい。この谷での核心は下山を含む後半で間違いない。上部のはっきりしない地形を見れば恐ろしさを感じるであろう。筆者らは三俣を右に取りなるべく右俣近くを進んだが、尾根を乗越し沢を下降してびっくり。見覚えのある1450m付近の二俣に戻っていた。そこから改めて尾根をひとつ乗越して無事右俣へと下降できたが、あのスラブ滝を下降する破目になった事を考えると恐ろしい。右俣を下降するにせよ、ボージョ谷を下降するにせよ総合力が必要となる沢なのは間違いない。登攀、巻き、藪漕ぎ、読図どれをとっても凄く難しい訳ではないのだが全て一定以上できないと危険な場所だと思う。逆にそれだけ登山と冒険感を楽しめるとも言える。ダム以降には人工物は一切無いのもいい。地元ならば余裕を持って土日で訪れることも可能だ。遠方から登るのであれば、大畠谷左俣~フカバラ谷下降~卜谷遡行~ボージョ谷下降という継続遡行はどうだろうか。一度に境川上流を味わえるラグジュアリーツアーだ。お隣の加須良川も含めて一秋この地で遊ぶのも楽しいだろう。

<アプローチ>
桂湖の駐車場に駐車し大畠谷出合いから入渓。出合いまでは境川本流を遡るが難しくない。卜谷は本流770m地点で合流する谷であり、左俣と右俣は標高1060m地点で別れる。左俣を遡行後は右俣を下降するのが合理的なのだが、この下降点を当てるのが地形的に難しい。特に稜線付近まで詰め上げてしまうと大変難しいため、下手をするとリングワンデリングしてしまう。周辺の地形に注意を払いながら現在地を把握したい。卜谷中では安全で快適な泊まり場は殆ど無い。強いてあげるのであれば標高1000m付近だろうか。概念を良く把握していれば日帰りも可能だと思う。

<装備>
カム少々又はトライカム少々。基本ラバー靴が有利だと思う。

<快適登攀可能季節>
9月~10月。白山はなんといっても秋がいい。

<温泉>
くろば温泉:国道沿いに有るのでわかり易い。600円也
五箇山荘:高速のインターを少し過ぎたところにある綺麗な温泉。500円也

<博物館>
世界遺産の五箇山集落に古民家があり歴史を学べる。平家の落ち武者によって拓村された。そして、囚人を幽閉する場所でもあった。古い流刑小屋もあるので立ち寄ろう。江戸時代には、加賀藩の火薬庫で塩硝を製造していたそうだ。ブナオ峠から火薬を運搬していたのだろうか。そんな思いを馳せながら山を楽しもう。

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