2024年1月9日火曜日

剱岳 八ツ峰四稜~主稜(冬)

 




















 山登りには沢山の印象的な朝が訪れる。せせらぎの音の朝、風の音で目を覚ます朝、凍える最中待ちわびる朝。朝のリレー走者を請け負っているからには次走者への良いリズムでバトンを渡すべく、各種の朝を取り揃えておくことが肝要である。その点において山登りはいいんじゃないでしょうか。筆者の考えるマイ★ベスト朝は東面の雪稜で迎える朝だ。月光を浴びて行動を開始し、やがて空の色が七色に変化し、山が紅に染まる。あれだけ大切な存在であった月はいつの間にか意識から消える。弾む呼吸と冷気とが重なり、視覚情報に風味が加えられる。風の無い静かな朝であれば世界の静寂を破るのは自分だけだと気づくだろう。冬の雪稜は五感すべてから地球と自分の存在を意識させてくれる。
 では、どんな東面の雪稜でも良いかというのそういう訳でもないなぁ。やっぱりちょっと緊張感がある状況の方が鋭利な心象として輪郭が立ってくる。その点において冬の剱岳八ツ峰は国内でも最高の朝を提供してくれるはず。
 
 3月に四稜~主稜を登ったことがあるが、年末年始とは行って帰ってくるくらい状況が違う。四稜の末端は藪が五月蠅く時間がかかるので、無名岩峰まではルンゼから登り割愛した。春には安定した雪面となるⅣ稜上は不安定な雪が付着するので、基本稜上を勝負することになる。稜上に雪崩雪面が現れるので、天候には細心の注意を払いたい。Ⅰ峰の直下にある小ピークは左から雪面を登りエスケープした。ここも雪崩斜面となるので場合によっては苦労しても稜上を進もう。漸く辿り着いたⅠ峰からは連続する鋭いナイフエッジが望め疲れが吹き飛ぶはず。
 Ⅰ峰に出てから悪めのクライムダウンを少しこなしてから懸垂下降1発でコルに至る。以後、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ峰各ピークと途中に現れる小ピークからは懸垂となる。支点は掘り起こしてブッシュや残置を出すといい。無い場合は設置することになる。稜上が不安定な雪なこと、重荷を背負っていることもあり基本的にロープは繋いだままになる。確保が不要な場合でもロープを仕舞わずに引きずって行った方が行動の切り替えがし易い。ポイントとなるのはⅥ峰、Ⅶ峰の急雪壁登りだと思う。大きな雪崩斜面を登らざるを得ないので、主稜上で悪天に捕まることは余り想像したくない。八ツ峰の頭に着いたら池ノ谷乗越へは懸垂下降1発で到着。ここに到着してもまだまだ気が抜けないのが剱岳。馬場島に到着するまで気を引き締めて。池ノ谷乗越からの登りはどうという事の無いルンゼであるが、雪崩が発生しやすいのでロープを付けていった方がいい。早月尾根はいつだって強風だから対策は十分に。

 厳冬の八ツ峰は登る機会が多くないのは事実である。しかし、温暖化や働き方改革という時代環境の変化が有り以前よりも取り付くチャンスは増えているのだと思う。もし、貴方の考える最高の朝が東面の雪稜であるのならば、我武者羅に毎年通うという手もアリなんじゃないでしょうか。その時は月齢も忘れずにチェック!

<アプローチ>
2217mの無名岩峰に至る尾根やルンゼは多いので適当にその前に登ったルートから至近の尾根かルンゼを登るといい。筆者らはガンドウ尾根から継続した。先の好天周期が限られており、当日の雪の状態が良かったので、無名岩峰北側コルへ通じるルンゼを登った。四稜の幕営可能箇所は地形図通りであるが、雪崩リスクの少ない安定した個所を選びたい。主稜上はⅠⅡ峰間コル、ⅤⅥコルが快適だが、雪洞ならば要所に設営可能。

<装備>
スリング少々と念のため懸垂用アンカーとして土嚢袋。アックスは1本で良い。墜落のリスクは無いので、細径スタティックロープを利用する手もある。

<快適登攀可能季節>
12月~2月

<温泉>
アルプスの湯、ゆのみこ温泉

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