2024年8月27日火曜日

瀬波川 瀬波倉谷








 山登りでは予断が適切でなければ危険である。将来を予見し妥当と推量する行動を選択するのが基本筋。しかし、あんまりにもマージンを取りすぎると何もできなくなり、ちっとも面白くない。

 瀬波倉谷の地形図だけを見て面白そうと予想するのは困難である。傾斜はそれ程強く記載されていないし、高低差も高々550mだ。短いし面白くなさそう。と予断を許すと勿体ない。入渓して直ぐに硬い岩盤が露出し深い釜があることに驚く。北側の直海谷川の上流域に近い岩質だろうか。集水面積が小さいものの、ゴルジュもナメもあり貫禄のある渓相である。小滝のクライミングは簡単なので水を浴びながら楽しく進める。水流は幾つも分かれているが、今回は851mのハチブセ山を目指す。最後は藪漕ぎが少なそうなルンゼを嗅ぎ分けて進むと登山道へ出る。この稜線は888.6m三角点のあるオンソリ山へも登山道が拓かれておりアプローチは良い。そして稜線の植生は多様な植物が残る原生林風なので歩いていて面白い。ここは四季を通じて歩いたら多くの発見が有りそうな道である。富山県西部~白山山域の標高1500m以下の森があらゆる山の中で最も好きな場所かも知れない。

 登山道を使って下降をしたところ、遡行を含めて大体2時間半で登山活動が終了した。これほどライトで充実するルートも多くはあるまい。日の長い時期であれば出勤前に登山することも可能なのでは。雨の日や白山里の温泉旅行と併せてなど多くの場面で楽しめるだろう。

<アプローチ>
ハチブセ山の登山口となる白山里の近く駐車スペースを利用する。下山は登山道を利用するのが楽。

<装備>
沢慣れしていれば何もいらない。

<快適登攀可能季節>
5月~10月。オロロが酷い地域なので注意。

<温泉>
白山里:瀬波川から最寄りの温泉。こじんまりした綺麗な温泉で450円とリーズナブル。地元の野菜が大量かつ安価で売っていていい。

2024年8月22日木曜日

高瀬川 七倉沢














 日常的な宿題は勿論、夏休みや冬休みの宿題は全くやったことが無いが、自由研究という課題が初等~中等教育で与えられていることは知っている。学習指導要領が示すその意義・目的は知らないのだけれども、恐らく数学を含む自然科学、社会学、文学、芸術など本人の関心を持った事案に対して探求活動を行い、その成果物を提出するものと推測する。ダンス、音楽、インスタレーションといった成果物が容認されているのかは分からない。
 その自由研究の題材として最適ではないかと思うのが、「北アルプス南東面に分布する花崗岩について」だ。北アルプスの南というのは篭川以南を指し、東面というのは三俣蓮華、槍ヶ岳以東と定義する。なんで最適であるかというと、この山域は殆ど花崗岩なのだが、訪れてみるとビミョーに性質が異なる気がするのである。例えば有明山の花崗岩と高瀬川上流の花崗岩は風化度合いが違う。さらに細かく述べると唐幕の岩と東沢二ノ沢の岩も違う。課題として全然違うものを扱うより、ちょっぴり違う事をつぶさに調査する方が面白そうだ。夏休みが40日くらいで、雨が降らない日のみ活動したとしても25日間は確保できるので体力さえあれば相応の研究が出来るはず。雨の日は先行研究調査でもすればいい。
 さて、七倉沢である。七倉沢は後立山でも日帰り可能でポピュラーな沢のようなので研究最初の1本としては良いのではないかと思う。入渓すると白く輝く花崗岩が眩しい。ちょっとした小滝を楽しみながら登っていくとボルトが連打されたスラブ滝。あるものは使わせていただき登る。下部の岩の割れ目に沿って赤色の鉱物が含まれていてアート要素強め。まき散らされた紅色はさながらジャクソンポロックのドリッピングである。谷筋は段々と険悪な雰囲気を漂わせて時折ロープの使用を要する。どの地点であったか忘れたが、側壁が黒色の安山岩っぽい雰囲気になってくる。側壁が余りに立派なのでこれを冬に登ったら結構面白いんじゃないかと思わせる。1750m地点より先は変なスノーブリッジが断続的に続いていたので、すごすごと帰った。寡雪の8月に遡行したのだが雪が残っていたことを考えると、残雪がすべて消えるのは9月~10月なのだろう。1770m左岸ルンゼから広がる壁は花崗岩のようだったのだが果たして。
 途中までしか遡行していないが、風景と遡行内容は申し分なくエンタメ性は高いので楽しい沢であった。しかし、これを初等教育時点で行うのは難しい。9年間義務教育の自由研究を全て「The road to the granite of the Northern Alps」と称した研究にするのはどうだろう。序盤と中盤はトレーニングと事前文献調査及び観察手技とデータ処理手法の習得に充てる。トレーニングは歩きの登山から始まり、フリークライミング、山岳地のクライミングや沢登りを野外活動編として毎年活動する。併せて先行研究調査として登山道や入渓点での観察調査を毎年行って、精神と体力が充実してきた8年目と9年目には各沢を稜上まで遡行して実地調査である。保護者が40日間付き添うのは難しいので、近所の友人を1人から2人巻き込むことも検討したい。実際のところ、体力・知力・判断力等々が養える総合教育として最適なのではないか。夏休み終了間際の保護者の皆さん、初年度は研究ビジョンを表した計画書の提示のみでOKだと思うので是非取り組んでみてください。

<アプローチ>
七倉の駐車場に駐車して七倉岳へ続く登山道への道を少し歩いて入渓。入渓して直ぐのL字堰堤は右岸を大きく巻く。下降は登山道が楽。

<装備>
カム少々、ピトン各種。ラバーソールの方が圧倒的に有利な沢である。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。残雪が多い時期だと上部は雪渓歩きになるはず。とはいえ、時期が遅いと寒い。雪渓歩きを行う前提ならば7月がいいかも。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

2024年8月21日水曜日

中房川 深沢右俣

 










 有明山は四季折々登っても楽しい山だと思う。春はシャクナゲ、夏は沢登り、秋は紅葉、冬はクライミング。高すぎず、低すぎない標高に付けられた変化に富む登山道も魅力的だ。

 深沢右俣は花崗岩の美しいナメ滝と豪快な大滝が連続する出色の谷である。集水面積が少ないため水量は少ないが、これにより水の流れが速くない。これがナメを美しく際立たせている。ナメの箇所は開けた地形でスケールを感じられるのが良き演出である。ゴルジュ地形も序盤と終盤に配されており嬉しい。どの滝も楽しいクライミングだが草付きを掘り起こしてネイリングすることに成れていないとランナウトする。目ざとく草をはがしてピトンを打ち込んでいこう。右俣へ入って直ぐの大滝を越えてから崩壊箇所が多くなる。ガレとザレが堆積していて危ないのでビレイヤーの位置には注意したい。詰めがヤバそうな地形図の書きっぷりだけども実はそうでもなく割合快適に山頂に到達できる。

 中だるみすることない切れのある沢であった。沢登りシーズンが長い地域なので、初夏~晩秋の期間でも登る印象は変わるのだと思う。緑きらめく初夏と山燃える秋にも登ってみたいものだ。

<アプローチ>
観音峠の駐車スペースに車を止めて斜面を適当に歩いて入渓。幕営適地は右俣へ入ってからすぐの大滝を登ってから直後に現れる台地。進み過ぎるとガレがひどく不快と思う。下山は登山道が無難。中房川へ降りると早いが、黒川沢側へ降りると随分時間がかかる。沢慣れしている者同士で日帰りで登るのが快適なんじゃないかと思う。

<装備>
カム一式、ピトン各種(アングルやユニバーサルがよく効く)。ラバーソール、フェルトソールどちらでも行けるが、ラバーソールの方に利があるかも。クライミングシューズを持って行く方がいい。

<快適登攀可能季節>
6月~10月。雪の少ない地域の低山ゆえシーズンは長い。夏はブヨが多い地域なので、秋が良いかも。

<温泉>
しゃくなげの湯:かつてあった公共日帰り温泉施設が無くなってどでかい温泉となった。入浴料は土日と平日で異なる。

すずむし荘:単純弱放射能温泉(ラドン温泉)でさっぱりとしたお湯。内湯、露天ともに綺麗で快適である。

大海川 大倉沢

 











 富山県民にとって頸城の山といえば海谷渓谷や早川流域、それに鉾ヶ岳山塊といった北側の山が身近な存在。小谷村の南側は少し回り込む経路となるため何となく遠く感じてしまう。況や東側の妙高となれば異国である。
 小谷村中谷川上流の渓谷は粒ぞろいでよろしい。浅海川のゴルジュ造形美、横沢のナメと大滝連続コンボ、どちらも素晴らしかった。では、中谷川の本流とも呼ぶべき大倉沢はどうだろうか。
 黒沢出合いまでは緩やかな川原を淡々と歩くだけである。そこからV字状渓谷となっていく。黒々としたボロイ岩は正に海谷上流と同じ。加えて水の濁り具合、ちょっぴり苦い味も同じ。住み慣れた地獄はほっとする。周囲の光景がイカツイいうえ屈曲点が多数ある。角を曲がる度にくるのか・・と身構えるが全然来ない。快適に小滝を登るうちにゴルジュ帯を終了していた。以後も淡々と進み、1930mの二俣を左に入ると急なルンゼ状となる。ここから高差50mくらいがこの谷の核心である。下部が容易なだけに油断せずに登りたい。最後は竹のようになった笹の密生を漕ぎ分けて登山道のある稜線にやっとこさ出る。
 頸城の沢の雰囲気は漂っているのだけれども遡行は比較的容易といえる。取り付きにくい印象のある山域の中で日帰りで丁度いい遡行距離で、金山に登ることもできる。at 頸城沢登り入門にいかがだろうか。

<アプローチ>
小谷温泉の雨飾山登山道入り口に駐車して任意の場所から入渓。下降は登山道を利用してもいいが、アップダウンが多い。茂倉峰からの右岸支流や黒沢を下降すると合理的である。筆者は黒沢を下降したが、最後に大滝がある以外割合下降し易かった。

<装備>
沢慣れしていれば懸垂用のロープのみでOK。フェルトの方がいい。

<快適登攀可能季節>
8月~10月。残雪が多い時期だと不安定な雪渓が残る。やはり秋がよいだろう。

<温泉>
小谷温泉:雨飾荘、山田屋温泉旅館など複数あるが日帰り温泉終了が早いので要注意

2024年8月20日火曜日

篭川 黒沢

















 アルペンルートの東側玄関口である扇沢の横を流れる篭川。この支流を沢登りする人は多くないかもしれない。地形図ではどの支流も一直線に水線が描かれており変化に乏しそうに見える。その中でもしかしたら、と思わせるのが黒沢の1070m左支流だろう。手始めは面白そうなところからやりたいのが人情というもの。北アルプスの新たな側面に期待して入渓。

 篭川の広い川原を流れる水は川幅に比して小さい。しかし、足を入れると水は重く足をすくわれそうになる。油断せずに渡渉したい。黒沢本流は思った以上に水量があり、左支流とは滝で出合っている。右の方が楽しそうだが左へ入る。左は赤みを帯びた花崗岩で黒沢という名前がどうも似合わない。ガレも結構堆積している。はずれの不安を抱きながら歩みを進めるとやがて美しい段瀑やナメが現れ一安心。シャワークライミングと小さい巻きで越えると一旦川原となる。中盤からもシャワークライミングをまま味わえるので飽きない。終盤は側壁が地形図と整合しないスケールで発達しており、谷は水の無いスリットゴルジュとなる。迫力のある景色のなか小滝群を楽しく登ると、それ程のヤブコギも無くシャクナゲが繁茂した尾根に出る。
 さて、反対側の本流へ下降だ。本流へのアクセスはぬめり易いものの下降はしやすい。水が現れ始めると驚くほど冷たく谷全体が冷気に覆われている。そして、黒沢という名前の表すがごとく岩盤が黒い!地形図では淡々とながれるように描かれているが、豊富な水量を豪快に流れるナメ滝が多く登っても面白いのではないかと思わせる。黒い岩に発達する緑色の苔も良き演出である。清冽な水は真夏の遡行にぴったりであろう。意外な20m大滝も現れて下降も飽きさせない。終わってみれば大満足の半日遡行であった。

 小さな流域にも関わらずここまで変化にとんだ渓相を楽しめるとは想定外であった。花崗岩のシャワークライミングと安山岩質の溶岩による黒ナメの美。剛柔兼ね備えた良渓と言えよう。いずれ篭川の他の支流も登り比較したいものだ。次は白沢天狗山西面の岩場と合わせて対岸の白沢を登ってみようか。

<アプローチ>
黒沢出合い付近の道路路側帯に駐車する。登攀は左俣遡行~右俣下降のラインの方が面白いと思う。

<装備>
沢慣れしていれば懸垂用のロープのみでOK。そうでないならばカム少々。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。北アルプス主稜よりも標高が低いのでシーズンは長い。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。