2024年10月8日火曜日

関川 真川 鍋倉谷

 














 東西南北どこからでも登れる山は思わぬ気づきが得られることが多く面白い。北アルプスや白山は大概南北に山稜が単調に続くため継続は横断系になることが多い。翻って、海谷~妙高にかけての頸城山域は金山を中心として東西南北に稜を伸ばし、その周辺の地形は多様で登山対象となるキャラが大渋滞している。継続遡下降の醍醐味が味わえる山域だろう。
 笹ヶ峰は富山からは何となく行きづらところである。東西北のアクセスが良すぎるがゆえ、わざわざ上越まで行って回り込むことになる所に行くのは気合がいるのだ。裏金山谷といった西側から山越えして取り付きやすい場所ならともかく、下流側の鍋倉谷に取り付くにはこの壁を乗り越えねばならばない。壁は高いのだが、頸城成分の特盛全部載せである鍋倉谷は必ず訪れるべきと喧伝したい。

 秋を楽しむために頑張らないこととしてヒコサの滝は高巻いて入渓。この高巻きで食べごろのキノコをたんまり収穫できた時点で山行は成功である。ヒコサの滝上の第一ゴルジュは水量豊富で迫力があるがヘツリで快適に登ることができる。黒々とした泥岩主体の渓相は海川、能生川及び中谷川にもみられる頸城らしさだ。所々鉱泉が湧出しており、そこに生育する赤色バイオマットもまた頸城らしさである。
 少し川原歩きをするといきなり両岸が立ち始めて物凄いゴルジュになる。第一ゴルジュとは異なる角礫岩のゴルジュで禍々しい。泥岩から角礫岩となっていて、火砕流や火山灰の影響が感じられ始め嬉しい。屈曲滝の造形は奇妙奇天烈で技術的にも結構難しい。ここはカムが意外に有効である。次はチョックストンが詰まった2m滝で、ここはシャワーで突破か乾いたスラブを登る。シャワーの方が安全であったが、濡れるのを嫌いノープロでスラブクライミング。ここはクライミングシューズが有効だろう。ちなみに谷全体を通して川床は物凄くヌメるのでフェルトが歩きやすい。第二ゴルジュ後は渓相は特徴的な砂岩と泥岩の互層を示し大いに盛り上がる。この岩の中には海の潮流が時の積層として残っているのだ。能生川イカズ谷のフィリッシュと違い褶曲は顕著ではないので、禍々しさは削がれて純粋なエンタメ要素しかない。感動に打ち震えているといきなり火山岩溶岩性の渓相に切り替わり、門のような滝が立ちはだかる。その後も溶岩が浸食されたゴルジュが続く。誠におもてなし上手な谷である。猛烈な笹薮をかき分けて辿りつく天狗の庭は終局にふさわしい。紅葉は冴えないものの池塘を囲う霧と光が幽玄の美を醸していた。
 美しい森の中に拓かれた登山道を歩いていると、ふと違和感を覚えた。北西面の森と木々の種類は同じなのだが、樹高が高く風にそよぐ梢の音が遠い。吹き抜けのように開放感がある森は穏やかで優しく心地がいい。これだけ樹高が高いのは内陸であるがゆえ、北西の季節風の風下となるうえ、日本海低気圧の南風からも守られているためだろうか。だとすると富山での立山と黒部川の対比に似ている。キノコをさがしながらのんびり歩く登山道歩きは楽しいものだ。
 
 鍋倉谷をこの山域の手始めに訪れていたらこれほど心動かなかったかもしれない。山登りは本を読むことに似ている。山を駆け、当地の自然が織りなす物語が記される言語を習得することが肝要といえる。決して人間には描けない重厚で謎めいた物語は何度読んでも新たな発見がある。次のページを開くのが待ち遠しい。

<アプローチ>
笹ヶ峰からちょっとだけダート道を走り、杉ノ沢橋まで行き広場に駐車して入渓。ヒコサ滝を巻くのであれば遊歩道を使って藪に入り巻きに入れば落ち口に出られる。幕営箇所は1880mが最高。ここでのんびりするだけで楽しい。下山は色々取れる。最も安易なのは登山道を利用して笹ヶ峰ロッジへ下降する。そのほか、焼山の方に縦走して登山道下山やヌルイ沢を下降するなど色々と取れるだろう。

<装備>
カム少々、ピトン少々、足回りはフェルトでクライミングシューズを持参するのがバランスが良い。

<快適登攀可能季節>
9月~10月。残雪が多いので秋が良い。紅葉とキノコを求めて行くがいいさ。

<博物館など>
妙高高原メッセ:図書館に蟹江健一氏の寄贈図書があり、この資料だけであっという間に時間が過ぎる。頸城フリークならば一度は訪れたい。えっ、蟹江健一を知らない?!



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