剱岳は御存知の通り岩と雪の殿堂と称される。ちょっと待てい!剱岳は西に池ノ谷ゴルジュ、東に剣沢を擁する日本屈指の渓谷登攀のエリアなのだぞ。
富山県民にとって扇沢駅は全く縁が無い交通機関ではないかと思う。冬に何度も横を通りすがってきたものの初めて利用する。社会見学として一度は利用しておきたい。黒部川沿いの日電歩道は丸東君とガビンちゃんが眺められて素晴らしい登山道だ。水を落とす渓谷もスラブが美しく登ってみたいものだ。白竜峡の渓谷は圧倒され、歩くのも緊張感があってこれまた楽しい。感動に打ち震えていると十字峡に到着するので気持ちを切り替え粛々と剣沢に入渓する。
剣沢平から先はのっぴきならない雰囲気となる。トサカ尾根末端壁(トサカ状岩峰)と大滝大根末端壁が遡行者に圧力をかけてくる。壁から続く鋸歯状の尾根は冬の課題として魅力的に見える。水量が少なかったこともあり容易にI滝とご対面。滝も特徴的で美しいが右にそびえる大凹角壁もこれまたイカツイ。これも冬に登って大滝尾根に繋げたらさぞ素晴らしい課題だろう。I滝は概ね先人の記録と同じラインを辿り焚火テラスに到着。焚火テラスは信じがたい平坦さで2人テントなら完璧に設営できる。テラスから7mの懸垂の後、これまた先人が拓いたトラバースをする。とんでもないゴルジュの中、高度感のあるトラバースは支点も結構取れるので遊びとして良質だ。緑の台地手前E滝横で懸垂したらあとは登るのが脱出する条件となる。D滝は大西良治さんのラインから登った。D滝下部は雪崩で洗われボルトは抜落するので残置物を当てにしてはいけない。D滝左岸のビレイポイントとなる岩は黒部川花崗岩に典型的な暗色包有岩で可愛らしい。その可愛らしい岩の上をヤマアカガエルと思われる生物が歩いておりほっこり。C~B滝は嫌らしいスラブトラバースでやり過ごし、引き続き豪快な渓相を直登したり巻いたりして進む。このC滝以降の区間は残雪量、水量、はたまた水流の状況に依って登攀ラインは大きく異なるだろう。筆者らが訪れた際には残雪は皆無で概ね快適に谷中を進んだが、一部泳ぎがある箇所を嫌い高巻き、上部ゴルジュ手前の川原に降りた。ゴルジュも和らいでくるとやがて八ツ峰Ⅰ峰が姿を現す。あのゴルジュ後にⅠ峰の雄姿はこれ以上ない遡行終了でずるい演出だ。運が良ければ燃えるような紅葉が迎えてくれるだろう。
剣沢のような圧倒的自然造形に触れると形成された時間と失われていく時間はどれくらいなのだろうか、そしてその時間に価値はあるのだろうかと考えざるを得ない。剣沢ゴルジュも小川支流荒戸谷左俣もどちらもオンリーワンなのだが、なぜか剣沢の方を大切に感じてしまう。剣沢を核兵器で消失させても一部からはクレームがつくが、世界からの批判はないだろう。しかし、剣沢に生息するヤマアカガエルの腸内細菌からあらゆる癌を消失させる人工合成不可能な化合物が発見されていたら事態は異なるはず。JSバッハのBWV542が脳内で鳴り響き始め、世界が何なのか解らなくなってグラグラしてくる。ババロアの上に置いたジェンガのごとく既存の価値観が揺らぎ、個の輪郭が薄くなる。寂しいような嬉しいような。暖かいような冷たいような。この心身を貫くマーブルな感覚は新しい何かを生み出す原動力になるのではないか。特異奇矯な自然に敢えて意義を与えるのであれば、不安定な感情を人間に与えることで創造精神を涵養することなのかもしれない。グラグラ不安定タイムの最後はINUのメシ喰うな!を脳内絶唱して締めるのがいい。これですっきりである。って、いつものルーティンで創造精神涵養されていない!
一般的には扇沢駅から黒部ダムまで行きそこから十字峡まで歩く。秋の盛り、扇沢駅の始発バスは信じられない混雑するので初日入山日は平日にしたい。下の廊下、白竜峡の辺りはザックが大きいと危険なので注意して歩こう。十字峡から雨量計のある黒部別山北尾根に付けられた尾根を歩いて、慰霊碑プレートから標高差にして20~30mくらい登ってから斜面をトラバースして下降するとうまい具合に川原に降りられた。幕営ポイントは剣沢平、焚火テラス、D滝上の大岩下(飛沫が舞う)、最上部ゴルジュ開始手前が上等である。雪渓の残り具合によっても感じが変わるだろうから大体の情報以外は現場判断となる。
事情により扇沢に戻ってバス下山したが、許されるのであれば剱岳を登頂して下降すると一層感慨深いので良いと思う。
<装備>
カム1セット(#2まででOK)、ピトン各種沢山(ナイフブレード多め)、念のためボルトキット、クライミングシューズ、沢靴はラバーソールがバチ効き。幕営装備は二人ならばテントで臨むのも防寒対策として良いかも。荷揚げ用、懸垂下降用にロープは2本欲しい。
<快適登攀可能季節>
9月~10月。寡雪で水量が少ない時が組し易い。好条件と休暇が噛み合うかが最大の核心と言える。
<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。
塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。
塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。
0 件のコメント:
コメントを投稿